主従はたったの七騎。戦闘することはもはや不可能な状態だ。そのことが義仲にもわかっているからだろう、しばらくして義仲は巴に向って「逃げろ」と叫んだ。
「お前は女だから、まだ殺されないですむ!」
「何言ってるのよ! いまさらひとりのこのこ落ちられるわけないでしょうが!」
「――小子が心配なんだよ!」
 ……それはこの状況で言うこと? 巴は一瞬唖然とし、それから納得する。
 そして、巴はさきほどの葵の声を再び耳にする。
 義仲が死んだら、首を盗んで燃やせ。
 そして、呪われた款冬姫さまを自由にするのだと。
「……わかったっ。款冬姫さまのことは、まかしといて!」
 そう告げて、巴は勢いよく馬の方向を変える。振り返ることはせず、全速力で戦場から離れていく。義仲には兄の兼平と兼光が最期までついてくれる。あたしは自分がすべきことを成せばいい。
 こんな場所でも雪に覆われた大地から、款冬(ふきのとう)の黄緑色の新芽が顔をだしている。絶望していた巴はそれを馬上から見てすこしだけ微笑ましい気持ちになる。