家族を失いたくないから、幽閉されても仕方ないと思っていたのに。家族に対してその呪いは無効だった……?
「たぶんね、款冬姫さま。あなたにその匂い袋を渡した巫女は、あなたとその家族を守るために、あなたに鬼を憑けたのよ」
 それ以上は教えられない。葵はそう言って口を閉ざす。小子は葵の言葉を真に受けて、考えこんでいる。
 ……真実を知ったとき、彼女は何を思うだろう。
 強引極まりない方法で、初恋のひとを手に入れた、巫女の正体。
 それは、鬼神とおそれられている男だ。
 彼は、木曾にいた幼い頃、身元を欺くために女のふりをしていたことがある。諏訪へ武芸の修行に入った時も、美しい容貌を武器にときどき女の恰好をしてはこっそり抜け出して遊んでいたものだ。