育つかどうかわからなかったが、思っていたより強い花だった。小子みたいな花だという義仲の言葉は当たりだと思う。いまも雪のあいだから顔をだし、香子蘭(ばにら)に似た芳香を漂わせている。
 小子は巫女のことを忘れずにその香をつけつづけていた。お守りだなんていいながら、ほんとうは呪いの原因だと勘づいていたはずなのに。呪物である匂い袋を捨てたらどうなるか、きっと本能的に感じ取っていたのだろう。
 葵は箙に花を挟み込み、反芻する。
 義仲によって生き延びることができた少女のことを。