山吹城の巫女姫は少女のように笑い、立ち上がる。どこからともなく涼やかな鈴の音が響きわたり、葵の身体が柔らかく発光する。
 諏訪大明神の愛し子が人目を憚ることなくちからを使う姿に忠親は見惚れていた。けれど「ぼけっとするな!」の葵の一声で我に却り、慌てて室から飛び出していく。馬の用意をするために。
「……さて」
 ずっと横になっていたから身体がなまっている。だがそのおかげで体力も神気も回復したようだ。立ち上がり、腕を振り回し、勢いよく袿を脱ぎ棄て、葵は着替えをはじめる。
 ふと、悪戯心が湧きあがり、葵は庭先にでて花を摘む。
 京都では見かけない、匂款冬の紫がかった白銀の花。それは、義仲が上洛する際に木曾から持ち出した種を庭に植えておいたものだ。