「たぶん」
 正月二十日。坂東軍は二手に分かれて京都へ進攻してきている。範頼は勢多の橋から、義経は宇治橋から。義仲は軍を三分し、勢多へ兼平と兼光を、宇治へ行親と親忠を向かわせている。
 義仲は法皇のもとで戦況をうかがっているというが、遅かれ早かれ法皇御所にも坂東軍は迫ってくるだろう。迎え撃つ義仲がいつまでもつかは葵にはわからない。
「じゃあ、準備して」
 起き上がる葵を見て、男は目を丸くする。
「あの、葵さ……?」
「親忠。あなたも款冬姫さまを救いたいんでしょう? 義仲が死んだらきっと彼女も死のうとするわ。宇治の橋なら行親がいるんでしょ? だからわたくしのところへ来て最後の可能性に賭けたんでしょう?」