雪が降っている。
 寒い。小子は袿を何枚も重ねた姿で縁側からの景色を望む。
「小子」
「ききたくない」
 義仲はいつものように小子の小柄な身体を包みこむように抱きしめ、一緒に雪景色と向き合っている。
 ききたくないと拒みながらも、小子の両耳は塞がれていない。義仲が、両方の手で両耳に触れているから。
「明日、出立する」
 決まり切った言葉を口に出して、義仲は黙り込む。それ以上何も言わない義仲に対して小子は唇を噛みしめてつづきを待っている。
「お前はここに残れ」
「イヤ」
 戦場に女は連れていけぬと義仲は言いたいのだろう。だが、ここで離れ離れになってしまったら、きっともう二度と会うことはかなわないだろう。だから小子は咄嗟に応えていた。
「義仲が駄目だって言っても、わたしはあなたについていく」