生まれた頃から義仲を知る巴にとって、彼は源家の将来を担う八幡殿四代の御曹司だった。だが、伊豆に流されていた従兄の頼朝は源家の嫡流であり、義仲は遊女の息子で傍流にあたるという理由や、義仲の父義賢が頼朝の父義朝によって殺されたこと、叔父の行家が得意の讒言でふたりの軋轢を表面化させたことなどから、関係はこじれるところまでこじれてしまった。人質として息子の義高を送ってはいるが、頼朝はけして義仲を許しはしないだろう。
「……もう遅い。俺は滅びる運命らしい」
 正月九日。坂東軍進軍の報せは、小子のところへも迫っていた。