約半年間、事実上幽閉されている自分に仕えてくれた彼女の名は、山吹(やまぶき)
 少女のことをぶっきらぼうに「姫」としか呼ばない、自分より年長の賢く気品ある女性。
 この騒ぎに乗じて逃げるという判断は間違っていないように感じられる。
 だが、武器も持たない女房がひとりで無事に逃げ、生き延びることができるのだろうか?
 少女はじっとしたまま耳をすます。
 荒っぽい男たちの興奮した声が響く。夜盗だろうか。それにしては家族の悲鳴が聞こえない。もしやすでに……?
「!」
 最悪の事態を想像して、背筋が凍りつく。
 山吹はここにいるよう言っていたけれど。
 この邸で、いま、何かが起きている。
 いてもたってもいられなくなって、動きづらい小袿姿のまま、おそるおそる本殿へつながる回廊に足を滑らせる。