そもそも、匂款冬の花の香など、どこで手に入れたのだろう。木曾にいた頃ならあちこちで咲いているのを見ていたが、気候が異なるからか、京都に来てからは一度も見ていない。たぶん、宮廷の人間は款冬の花は知っていても、款冬に似た形のよき芳香を持つ白き花は知らないはずだ。
 そのことを聞くと、小子は小声で応えてくれた。もらったの、と。
「誰に?」
「諏訪神社にいた巫女さんに」
「そう、葵からもらったのね」
 たしか、葵の実家が諏訪大明神の下社だったはずだ。小子の女房として仕えていたころに土産として渡したのかもしれない。
 すると、小子は首を横に振る。
「違うよ。彼女じゃない」
「え、でも諏訪神社の巫女さんって」
「彼女の出自は聞いているけど、あのとき京の諏訪神社に彼女は行ってないって。それに、わたしは鬼に憑かれてしまったから……」