「運命を信じるなんて、ほんとこの世の終わりね」
「だから終わる前に、葵。ちからを貸せ」
 葵の嘲笑にも臆さず、義仲は希う。
「どうせ滅ぶとわかっているのなら、最期にあいつを喜ばせてやりたい」
「イヤよ。なんでわたくしがあなたの愛する小さな子の面倒を見なきゃいけないのよ。あなたがすればいいじゃない。ちからならくれてやるから」
 ふぃ、と顔を背ける葵の頬が赤くなっていることに気づき、義仲はくすりと笑う。彼女の天邪鬼なところは変わっていない。戦が嫌いだからと敵地で情報収集に自ら乗り出したり、嫌だと拒みながらも小子の女房役を務めたり、思ったより気に入ったからと小子を正妻に認めたり……離れた場所で気丈に振舞う年上の側室は、義仲に対して文句は言うが、けしてその意に反することはしなかった。