匂款冬の花の香を身にまとう少女のことを示されて、義仲は首を縦に振る。小子。俺が見初めた鬼神の花嫁……
「ああ」
 厳しい表情の義仲は、その瞬間、穏やかな顔つきに戻り、柔らかく笑む。
「俺が滅んだら、彼女はふつうの姫君に戻ることができるな?」
「でも、款冬姫さまはきっと、悲しまれるわ」
 鬼に憑かれた姫君。死の季節を呼ぶ冬姫。
 彼女がそうなってしまったそもそものはじまりは、諏訪神社での邂逅。
 何も知らない彼女にとってみれば災難でしかなかっただろう。すべてが仕組まれていたことに気づくこともできず、流されるように義仲の元へおさまった小さな子。
「もう充分、悲しい想いをさせたし、傷ついてもいるだろう。俺が彼女を留めさせたがために……でも、彼女のせいで俺は滅ぶわけじゃない。これが運命なんだ」
 遠くに目を馳せる義仲を、葵は鼻で嗤う。