「鬼神だなんて名乗っていても、所詮は人間。源義仲という人間は近いうち、滅びるわ」
 義仲が上洛してから軍の人数は激減した。地方の荒くれ者は美味しいものや美しい女性がいる京の魅力に取りつかれ、平家を滅亡させる目的を持ってふたたび戦場へ向かうことを拒み、義仲から離れていった。はたまた父が仇であるという理由だけで対立関係に陥ってしまった従兄の頼朝がついに京へ義仲を討ちにやってくるという話を聞いて怖気づいて逃げたのか。どっちにしろ、義仲の味方は少なすぎた。
「滅びる、か。山吹城の巫女姫さまがいうなら、きっと真実だろうな」
「あなたの天下はあともって一月。それまでに身辺整理でもしておくことね」
 さびしそうに笑う義仲に、あくまで意地悪に葵は告げる。
「それでも、彼女を救いたいと願う?」