「そのとおりよ。だけどお父様が望まれたことだから仕方ないわ。子どもは産んであげる」
互いの大切なひとたちのためにちぎりをかわし、義務のように一人息子を産んだ。それがげんざい源頼朝のもとへ人質として送られている義高である。
義高が葵の傍にいるあいだは夫婦生活も順調のように見えた。だが、義仲が以仁王の令旨を受けて挙兵してから、ふたりの関係は変化していった。はたからみれば以前より親しくも見えるが、それは夫婦としてのものではなく、ともに戦うものとしての仲間意識でしかなかった。
「俺が憎いと思わないのか」
「そうね。息子よりも叔父の保身を選び、頼朝と敵対することを選んだことは、いまでも悔しく思うわ」
「だがあのときはそうするしかなかった」
「そうね。どっちにしろ従兄どのはあなたを排除する」
葵はわかりきったことのように義仲の前で吐き捨て、目を細めて遠くを見やる。
互いの大切なひとたちのためにちぎりをかわし、義務のように一人息子を産んだ。それがげんざい源頼朝のもとへ人質として送られている義高である。
義高が葵の傍にいるあいだは夫婦生活も順調のように見えた。だが、義仲が以仁王の令旨を受けて挙兵してから、ふたりの関係は変化していった。はたからみれば以前より親しくも見えるが、それは夫婦としてのものではなく、ともに戦うものとしての仲間意識でしかなかった。
「俺が憎いと思わないのか」
「そうね。息子よりも叔父の保身を選び、頼朝と敵対することを選んだことは、いまでも悔しく思うわ」
「だがあのときはそうするしかなかった」
「そうね。どっちにしろ従兄どのはあなたを排除する」
葵はわかりきったことのように義仲の前で吐き捨て、目を細めて遠くを見やる。