「……そうか」
 義仲も頷き、葵を見つめる。
 彼女は巴と異なり乳兄弟のつながりもないし、義仲に好き好んでついてきたわけでもない。木曾にいた頃に育ての親であった兼平と兼光の父にあたる中原兼遠(なかはらかねとお)や修業先で世話をしてくれた金刺盛澄(かなざしもりずみ)が、義仲の嫁にちょうどいいだろうと連れて来たのがこの、葵という娘だったのだ。
 葵は諏訪大社下社の宮司である金刺氏の娘にあたる。気高くて賢い大人の女性だった。山吹城と呼ばれる城に暮らしていたことから山吹姫とも呼ばれていた。
 だが、義仲は自分より八つも歳の離れた葵に興味が持てなかった。葵もまた、元服を終えたばかりの義仲に対して恋愛感情を持つことはなかった。婚姻に逆らうことはしなかったが、そこに愛はなかった。
「あなたはわたくしのような年上の女性、お好きじゃないみたいね」
「お前こそ俺みたいな青臭い男を夫にするなど願い下げだ、と言いたそうだな」