「姫様はどこでそのお話を聞いたのかしら?」
 西国は安徳天皇を擁した平家が、東国は後白河法皇が頼りにしているという征夷大将軍源頼朝が、そして京都では義仲が、事実上治めている形になっている。だがその不自然な状態がいつまでもつづくことはないのだろう。均衡が破れるのは時間の問題だと義仲の乳兄弟である兼平が嘆いていた。
 巴は泣きそうな表情でうろたえる小子を宥めるように、よしよしと頭を撫でる。
「そう。お兄様たちからお話をうかがったのね、款冬姫さまを心配させてはいけないって義仲に言われているのに……」
「彼らを責めないで。わたしが聞きたいと駄々をこねたの。わたしは義仲の正室なんだから誰よりも知る権利があるはずよ、って!」
 巴は眼をまるくする。目の前にいるこの状況をおとなしく受け入れている少女が、はじめて義仲のことを知りたいと強く意見している姿に。