「巴。巴っ!」
「はあい? どうしたの、今にも泣きそうな顔して」
 小子の表情を見て、巴は何事かと困惑する。折しも、義仲に攫われるようなかたちで小子がこの邸にきて、最初の正月を迎えようとしているところだ。
「義仲が討たれるってほんとう?」
 義仲は小子と一緒にいる時間を大切にしてくれてはいるが、政治や戦のことについては何一つ語ってくれない。小子が尋ねても「お前は何も心配しなくていい」と笑ってごまかすだけで、何も教えてくれないでいる。
 だから法住寺合戦で法皇軍に勝利し、京の支配者となった義仲が何をしているのか小子は知らない。義仲の四天王たちに聞いても、緘口令が敷かれているのか、込み入ったことまで説明はしてくれない。
 どうにか親忠から彼が院の厩の別当になって軍馬の確保に勤しんでいることと、天下が三分となったことで食糧難が生じていることを知ることができた。