そう言って、無邪気に抱きついてくる。鈴を鳴らしたような笑い声をあげたのは自分だったのか、それとも巫女だったのか。
 ありがとうと礼を言おうとした時には、その姿は霞のように消えていなくなっていた。
「ちいさき子よ。この先お前は大変な苦難を強いられるだろう。だが、案ずることはない。耐え忍んだその先には運命の出逢いがある……またな」
 大切に抱きしめられた温度と、謎めいた助言を残して。
 それからだ。小子が鬼に憑かれた冬の姫だと京で噂になって、隠れて暮らさざるおえなくなったのは。
 だからあのとき出逢った美しすぎる巫女は、もしかしたら鬼が化けたものだったのかもしれない。けれど小子は彼女がくれた匂い袋を捨てられない。
 匂款冬の蟲惑的な甘い香りは長い年月(としつき)を経ても褪せることなく、いまもなお小子の周りで香り続けている。