「大丈夫なの? そんなに動き回ってまた倒れでもしたら」
「わたくしがそこまで無謀な女に見える? 問題ないから兼光も共にしてくれたのよ」
「……共にさせられたの間違いだろ」
 ぼそりと毒づく義仲をよそに、女性は彼の膝のうえにちょこんと乗せられている小子の前で膝を折り、嬉しそうに声を弾ませる。
「姫様。わたくしが山吹こと葵にございます。藤原の邸では無愛想に振舞いましたこと、お許しください。あんまし馴れ馴れしすぎると義仲さまがひとりで迎えに行けないとおっしゃられたし、親身になり過ぎて邸の人間に不審がられたくもなかったものですから」
「山吹が、葵?」
「ええ。生まれ育った城が山吹城と呼ばれていたものですから山吹姫などと呼ばれることもあるんです。姫様におきましては山吹でも葵でもお好きな方でわたくしのことをお呼びくださいね」