「それに、ここで法皇を落とさねーと、迎えに行けないからな……」
 ようやく見つけたのだ、京都に隠れていた初恋の少女を。
「邪魔ものは排除する。それだけだ」
 彼女を手に入れるためなら政権だって奪ってやる。義仲はにっこりと場違いな笑みを浮かべ、鋭く鬨の声をあげる。
「火矢を放て!」
 そして、義仲軍は怒声を上げながら法住寺を焼き立て、突き進んでいく。
 迎え撃つ法皇軍はその勢いに圧倒され、逃げ惑うものが多数にのぼった。戦意を喪失しているものもいれば、味方同士でやりあっているものもいる。
 法皇軍とはいえしょせん僧兵や無頼漢の集まりだ。戦闘が始まれば統制も取れずに自滅するのが目に見えてくる。どさくさにまぎれて公卿たちの死体も築かれていく。
 炎に囲まれながらも膨大な殺戮に血を滾らせ鬼のように刀剣を振るう義仲の姿に、敵だけでなく味方ですら恐れをなしている。