小子を連れだした夜に義仲が言っていた言葉。そこから彼女は、あたらしい二つ名を考えだした。
「素敵! 匂款冬(においかんとう)の君、なんて後宮の女御みたい」
 巴は小子と義仲の説明から、降り積もった雪から芽吹く淡い緑の款冬(ふきのとう)ではなく、冬から春にかけて花開くちいさく白い、匂款冬の花を思い浮かべたようだ。逆に親忠はどういう花なのかわからず首を傾げている。挙句の果てに口にしたのは、小子を驚かせるひとことだった。
「山吹姫と混同しそうだな」
 山吹姫? 小子は義仲と巴の顔色をうかがう。ふたりは一瞬ぽかんとしていたものの、親忠をキッと睨みつけるだけで、何も言わない。
「山吹姫って、わたしに仕えていたあの山吹?」
 小子が思い切って尋ねると、応えは御簾の反対側から聞こえてきた。
「そうよ、姫様。おひさしゅうございますわね?」