葵、という名前は義仲と最初に出逢ったころから何度も耳にしている。義仲が木曾にいたころからの関係を持っているようだ。彼女も上洛の際に同行したというが、げんざい病気療養中のため小子と顔を合わせるのは難しい状態にあると巴が説明してくれた。
 話の断片からして、葵も巴と同じようにさまざまな戦を体験しているようだった。武力派の巴と異なり、頭脳派のようで間諜の任務などを黙々とこなした才女だという。小子のことも彼女が調べて義仲に報せていたようだ。
 ……そっか、義仲のまわりにはわたし以外にも姫様と呼ばれる方がいるのか。
 そうなると、自分は彼らになんと呼ばせればいいのだろう。ずっと髪を撫でつづけている義仲は小子が困ったように顔を向けたからか、口をへの字にしていじけてしまった。
「小子って呼ぶのは俺だけだぞ」