「それは駄目だ」
 むっつりとした顔の義仲が親忠と小子の間に割り込んでくる。
「小子は俺だけのものだからな」
 すぐさまちいさな姫君の身体をひょいと抱き上げると、安心したのか表情を穏やかにして、親忠に勝ち誇ったように告げる。
「たとえお前たち四天王に護ってもらおうが、誰にも彼女の名は呼ばせないぞ」
 その、子どもじみた主の行為がおかしくて、呆気にとられている親忠の隣で、巴は笑い転げる。
「くくっ、義仲ったらそこまでしなくてもいいじゃない……っ」
「じゃ、じゃあ俺たちは姫様のことなんてお呼びしたらいいんですか?」
「知るかそんなこと。なんで俺がそこまで考えなきゃいけないんだ。小子の二つ名など必要ない。お前たちが呼びたいのなら本人に聞け。ただ、冬姫とは呼ぶなよ絶対に」