「まぁまぁ六郎、そんなに不躾に見るもんじゃなくてよ。姫様が怯えているわ」
 巴はくすくす笑いながら親忠を窘める。けれど黙り込んでしまった小子の反応が面白いからか口調は柔らかい。
「ごめんごめん、だけど俺こんなに愛らしい姫君なんか間近で見たことなかったからさ、つい興奮しちゃって! 同い年なんだろ?」
 たしかに親忠の顔は紅潮し、瞳が輝いている。小子は親忠が十七歳だと知りこくりと首を縦に振る。その反応に歓喜したのか、親忠は嬉しそうに顔をにやけさせる。
「だったら仲良くなれるんじゃないかな、義仲サマの傍にいるもの同士」
 また小子がこくりと首肯すると、親忠はにこりと笑う。十七歳の少年相応の眩しい笑顔が、小子だけに向けられる。そして。
「……許されるのでしたらぜひ、貴女の名を俺に呼ばせてください」
 さっきまでの口調をがらりと変えて、義仲がつけてくれた小子という名を自分も呼びたいのだと親忠は大胆にも頼み込む。
 その勢いに飲み込まれそうになった小子が首を動かす前に、冷たい声に遮られる。