「わたしと、義仲はあの日の夜が初対面。きっと、人違いだわ」
 それでも、自分が義仲につよく求められているいま、人違いだと正面から言い切る自信は、ない。
 義仲はまっすぐ小子を見ていた。だから小子を正室にすると言っていたのは、巴の言うとおりなのだろう。
 義仲の瞳が、小子を動かした。いまさら人違いだったと彼が訂正するとは思えないけれど……
「人違い、ね」
 巴は小子の否定に対して淡く笑うだけ。
 だからそれ以上、何も聞かれなかったし、何も言われることもなかった。