きっぱりとした巴の言葉は、悶々とした小子の不安を取り去っていく。
「彼が鬼神だっておそれられても構わないし、彼が鬼に憑かれた姫君を正室に迎えるって言いだしたときも反対しなかったわ。だってそれは決定事項だったんですもの」
「決定事項……?」
「そうよ。義仲は最初からあなたを探していたの。上洛した、そのときから」
 ――見つけましたよ、姫様。
 小子の脳裡で、懐かしい笑い声が、ぱちんと弾けて、消える。
「……違うわ」
 あれは誰。わたしを探して見つけたと笑いながら抱きしめてくれたのは……
 淡い思い出はときに優しくときに残酷に小子を翻弄させる。けれど小子はいままで義仲と逢ったことはなかったはずだ。どうして彼が自分を最初から探すなんて言う?