奥の室は塗籠のようだった。転がり込むように入って、巴の姿が見えなくなったところで義仲はようやく安心したのか、小子の身体をぎゅっと抱きしめた。
「ずっと、こうしたかった……」
 それは、夫婦となるものがするにしては幼稚な、つたない抱擁。
 なぜ、ここまで自分が義仲に求められているのか、小子には理由がわからないし、理解ができない。
 だけど小子は決めたのだ。自分は義仲のものになると。たとえそれが自分たちふたりを滅ぼしかねない行為だとしても、彼は構わないと言って、小子を幸せにすると誓って連れだしてくれたのだから。
 抱きしめたまま、義仲は何もしない。
 小子も、義仲に抱きしめられた状態のまま、じっと、その体温を感じている。
 抱きしめられて、小子は思い出す。
 こんな風に、大切に抱きしめてくれたひとが、いたことを。