もともとは平家一族の何某かが愛人を住まわせていた場所だという。平家が西国へ逃げた際、多くの建物は彼らによって火をかけられたというが、この邸だけは残されていたとのこと。
「だけどしばらくひとが生活していなかったからか、けっこう荒れ果てていたのよ。義仲がここに正室を迎えるなんて言いだしたから慌てて掃除したの」
「助かったよ巴。おかげで俺はこうして小子と静かに暮らしていける」
 何が静かなものか、と巴は苦笑を浮かべるが、義仲は気にすることなく小子の手をとり奥の室へ連れていく。
「義仲、さま?」
「義仲でいい、俺だけの小子」
 手を引かれ、義仲の胸元へ吸い寄せられる。ふわりと漂うのは昨日と同じ、危険な血の、それでいて甘美な香り。