巴はおそろしいとは思わないのだろうか? 小子と親しくなることは即ち、滅びへ近づくことに等しい。
 黙って思案顔に耽っている小子の隣で、巴は何事もなかったかのように口をひらく。
「あたしはね、あなたが誰であろうが構わないの。呪われた冬姫なんて言われても原因がぜんぶあなたにあるようには見えないもの。それに、神とか鬼とか信じてないからさ。そんなに気に病まなくてもいいんじゃない?」
「でも……」
「そもそも冬姫なんて寒々しい名前からして不吉よ。義仲に名前をもらったんでしょう? あたしもそう呼んでいい?」
「……えっと、駄目、です」
 小子と呼んでくれるのは義仲ひとりがいい。
 だから小子は巴に、しばらくは「姫様」と呼んでもらうことにした。