素直に頷く小子に、巴はそうよねと声を落とし、ぽつりと呟く。
「だけどこれもあなたを望んだ義仲の一面だから、受け入れて欲しいのよ」
 そう言われて、小子は巴のさびしそうな横顔を見つめる。
「義仲は、あなたを正室に迎えるために、自ら鬼となって多くの敵を葬って来たのだから」
 それはいったいどういうことなのだろう?
 小子は昨晩のことを思い出しながら首を傾げる。義仲のことを疑っているわけではない、けれど。
 ほんとうにわたしがここに来てよかったのだろうか?
 鬼のように残酷な行為を厭わず、必要以上に殺戮を許し、今上帝と法皇を監禁し、京の政権をわがものにしたという義仲。
 たしかに彼は血の匂いがした。自分自身で鬼神だと名乗ってもいる。
 けれど小子は、彼を血も涙もない鬼だと思えない。鬼神と呼ばれてはいるけれど、義仲は人間だ。
 正真正銘の鬼に憑かれた冬姫とは違うはずだ。小子が義仲の傍にいることで、彼やその周りのひとたちに危害が及ぶ可能性は、今もなお残っているのだから……