もはや何も言えない小子の前で、今日の天候を話題にするかのように、巴は法住寺での合戦を語り、自画自賛する。
「こう見えても幼い頃から剣を振るって生きてきたからね。女だからって舐めてかかると痛い目にあうってわけ。法皇軍もまさか義仲の軍に戦える女がいるとは思ってなかったみたい。はずみで首を捻じ切っちゃったときなんか、敵将までもがこっち見て固まっちゃったもの」
 合戦の混乱を招いた張本人はそう口にしているが、話を黙って聞いていた小子が味方の首を捻じ切られて固まってしまった敵将のように無反応になってしまったため、ハッと我に却る。
「ごめんごめん! つい自慢話になっちゃったわね。それに、お姫さまにとってみたらこんな残酷な話、喜んで聞けないわよね……」
「たしかに喜べる話、ではない、です」
 なんせ首実検に合戦に政権奪取だ。深窓の姫君にとってみればまったくもって無縁の世界である。