「良かった。気難しい姫君だったらどうしようかなって思ったのよ。葵ったら何も言ってくれなかったし義仲も眠っていたあなたをここまで運んできてあとは任せたって行っちゃったし……」
「ここは?」
 気だるい身体を起こして小子は左右に首を振って、周囲の様子をうかがう。自分が暮らしていた邸と似たようなつくりの簡素な室。真新しい藺草の香りが心地良い。
 京からはなれた見知らぬ土地にいるのだろうか。どうせここ何年も外出していなかったのだから京の中にいようが外にいようがたいしてかわらないが、知っておいて損はない。
「まだ京の中よ……このあたり土地勘ないからよくわからないんだけど」
「そうですか」
 巴は京の人間ではないようだ。小子は軽く頷き、あらためて質問する。