「まずは、状況を説明してください」
「覚えてないの?」
 さっきあたしが言ったでしょう? と視線を投げかけられるが、小子はその挑発的な言葉には乗らず、自らが体験したことを紡ぎ出す。
「昨晩、義仲が現われて、わたしを欲して、連れて行った……途中で寝てしまったわたしは、朝になって見知らぬ場所で目を覚まし、見知らぬひとと話をしている」
「あたしは巴よ。義仲とは兄が乳兄弟だから、幼いころから彼のことは知っているわ。まぁ、あたしにとってみたら兄のようなひと、とでも言えばいいかな……わかりやすく言えば端女(はしため)?」
 端女と口にはしているものの、自分を卑下することもせず、巴は説明をつづける。
「義仲に頼まれてあなたの傍につくことになったの。貴族の邸にいる女房と比べると頼りないかもしれないけど、しばらくの間だけだから我慢して」
「……我慢も何も、仕えてくださる方がいるだけで充分です」
 幽閉同然に離れで暮らしていた小子にとってみれば、自分のために仕えてくれるひとがいること自体、ありがたいことだ。