静まり返る邸の庭を義仲に抱きかかえられたまま、小子は瞳を閉じる。
 感じるのは、義仲の規則的な息遣い。
 それから、庭に植えられている山茶花の、ほのかに甘く官能的な芳香。夜の冷風に揺られて舞う白い花の首が、地面に落つる音……
「これからどこへ?」
「そなたが冬姫と呼ばれない場所だ」
「そんな場所が?」
「俺がつくった。誰も小子のことを冬姫などとは呼ばせやしない」
 その言葉を聞いて、小子は深く頷く。
「よかった。冬は嫌いなの」
 ――彼に、ついていこう。
 小子はこの夜、義仲のものになろうと、決めた。