「わたしが断るとでも思っているの?」
 義仲の言葉を遮るように、小子はたたみかける。自分が拒んでこの場に残るという選択肢など、とうに捨ててしまった。
 ――義仲の瞳に、魅入られたから。
 そしてまた、義仲も。
「いや」
 小子の言葉を即座に否定し、義仲は強い視線を静かに受け止める。
 抗うことなどできないというのに、義仲は小子に判断を任せようとしている。それが小子の癇に障る。
「わたしがあなたを夫として認め、鬼神の花嫁となった場合、わたしはあなたを滅ぼすかもしれません。それでも?」
「結構」
 滅ぶ運命だろうが、愛するひとをこの腕に抱けるのなら、躊躇などするものかと、義経は小子の華奢な身体をひょいと抱き上げ、回廊から飛び降りる。