「……」
「前関白近衛基房の娘、藤原伊子、だろ?」
「忘れていたわ。だってその名に意味はないもの」
もう誰も呼ばなくなった自分の本名など、いまさら呼ばれても苦痛なだけだ。通り名となった冬姫が独り歩きして、少女の名前を意味なきものにしてしまった。
「そうか。それは好都合」
問答をしているうちに、いつの間にか目の前に義仲が立っている。逃げようとすれば捕まえられる、そんな位置に。
「なぜ、わたしの名を訊くの」
「理由が必要か」
義仲はつまらなそうに少女を一瞥し、小声で囁く。
「お前が俺の花嫁となるからだ」
「前関白近衛基房の娘、藤原伊子、だろ?」
「忘れていたわ。だってその名に意味はないもの」
もう誰も呼ばなくなった自分の本名など、いまさら呼ばれても苦痛なだけだ。通り名となった冬姫が独り歩きして、少女の名前を意味なきものにしてしまった。
「そうか。それは好都合」
問答をしているうちに、いつの間にか目の前に義仲が立っている。逃げようとすれば捕まえられる、そんな位置に。
「なぜ、わたしの名を訊くの」
「理由が必要か」
義仲はつまらなそうに少女を一瞥し、小声で囁く。
「お前が俺の花嫁となるからだ」