彼女が窮地に立たされていたときに、たまたま助けたのがわたしだっただけの話。
だから、これは只の、タイミングの問題だ。
彼女は別に、わたしじゃなくても良かった。
わたしの代わりなんて、いくらでも、存在する。
「あのさ、これは本当にお願いなんだけど、恩義っていうのか、義理? みたいなのは、感じなくていいから」
しつこいくらいに、わたしは倉敷さんに同じようなことを言う。
先ほどの早口でいった悪態じゃなくて、今回はかなりオブラートに包んでいるけれど。
しかし、それでも冷たい言動に聞こえてしまったのか、倉敷さんはそのまま俯いてしまったので、わたしは久瑠実さんが用意してくれた、彩が鮮やかなお弁当を食べ始めることにした。
栄養バランスの取れた、かなりレベルの高いお弁当。
かなり辛口で評価するならば、量がわたしのような小食な人間にとっては多いと感じてしまうくらいだろう。
そういえば、手作りのお弁当なんて近江家に来るまでずっと食べていなかったな、とか考えていると、遠慮気味に倉敷さんが口を開いた。
「ごめんね。こんなこと、遠野さんに言うのは失礼かもしれないけど、わたし、遠野さんを初めて見たとき、わたしにそっくりだなって……思ったんだ」
わたしは、動かしていた箸をぴたっと止めた。
わたしに、似ている……だって?
「さっき、『誰とも関わりたくない』って言ったよね? それは、私も考えていることっていうか、思っていることっていうか……そういうこと、考えちゃうことがあるんだ」
すると、今度は慌ただしく手を振りながら訂正を入れる。
「あっ、でも遠野さんは違ったの! なんかね、この人となら、こんなわたしでも仲良くできるんじゃないかなって思ったんだ……」
えへへ、と照れたような声を上げる倉敷さん。
「わたしってね、なんだろう……。上手く言えないんだけど、面倒事を押し付けられることが多いんだ」
「面倒事……ねぇ。具体的には?」
気が付けば、いつの間にかわたしは倉敷さんの話に、興味を持ち始めていた。
もしかしたら、わたしと似ていると言った彼女が、どんな人間なのかを知りたくなったのかもしれない。
「えっと、1年生のころは、学級委員長をやらされたの。もちろん他薦だけどね。それで、今もあのクラスの学級委員長をやらされているの」
『やらされている』という言葉のニュアンスから、彼女の気苦労が伝わってきた。
というか、この子、クラスの学級委員長だったのか。
人を見た目で判断してはいけないって言うけれど、倉敷さんに人を牽引する力は備わっているようには見えなかった。