私が、爆弾を凍らせる――。
「……それは、氷の力を使って、ということですよね。爆弾を、わ、私のところに持ってこなくたって……もっと、別のやり方も……」
瞳子さんは、眼鏡越しの瞳で私をじっと見た。
「まふゆさん。あなたは、アツシくん推しですよね?」
「……はい。それは、もちろん」
「アツシくんを、助けたい――そうですよね?」
「もちろん……」
「では、どうして――ここにきて、躊躇うのですか?」
瞳子さんは、こちらをまっすぐに見つめてくる。
それはおそらく、責めているわけではなく、ただ問うているだけの静かなものだった。
唇を噛む。痛いほどに。
……ひとを凍らせてしまった記憶は、私のなかでも凍らせていた。
「……無理、ですよ……」
アツシくんを爆弾から守りたい。
もちろん、その気持ちは本物に決まっている。
アツシくんのおかげで私はどれだけキラキラした感情をもらえたか。毎日、どれだけ励まされていることか。
助けたい。だけど……だけど。
私には、無理だ。
能力をまともに扱うこともできない、駄目な雪女の私では……。
「全部を、凍らせるならまだしも。爆弾だけを、ピンポイントで凍らせるなんて……」
はっ、と口をつぐんだ。
それは、あの日の記憶。
氷になりかけた友達と、どうにか助かったあとの彼女に言われて凍りついた私の心――。
瞳子さんの瞳が、すうっと細められる。
ああ。逆に、どうしていままで気づかなかったのだろう――瞳子さんはきっとこれまでもこうして、他人の思考を読み取っていただろうに。
「……すみませんが、緊急事態なのでまふゆさんの思考を読み取らせていただきました。私のテレパシーの能力は、他人の思考がダイレクトに伝わってくるものです……言語的思考だけではなく、想い出の映像や、感情も……まふゆさん……氷の能力で、大事に思っていたひとを凍らせてしまったことがあるのですね」
そう。
その通りだ。
制服を着ていた時代のことだった。
引っ込み思案でぜんぜん友達ができなかった私にも、友達ができた。彼女はとっても明るくて、無邪気で……太陽そのものみたいな子だった……。
あの子の友達は私だけじゃなかったけれど、すくなくとも、クラスでいっしょに過ごす友達ポジションとしてあの子は私を選んでくれた。
クラス替えの季節から、春夏秋冬をいっしょに過ごした。
いっしょにテスト勉強をしたり、タピオカを飲みに行ったり、ひと晩じゅうスマホで通話したりして……楽しかった。
あの子といっしょにいるだけで、世界がキラキラした……。
あの子はいつでも私を喜ばせてくれた。
だから。私も、あの子を喜ばせたいと思った。
プレゼント。頑張って取った授業のノート。そんなの要らないよとあの子はいつも言ってくれた。私たち友達じゃないの、ねっ、まふゆちゃん、って少し困ったように笑っていた。
でも、足りないと私は思っていた。
もっともっと、なにかをあげなきゃ。
そうじゃないと、友達が他にもいるあの子の特別な――親友には、なれないと思った。
だから、あの子を呼び出した。
寒い寒い季節。雪女の、得意な季節に。
「……わかります。まふゆさん、べつにその子を――悪意で、凍らせたかったわけじゃないんですよね。ただ。……喜ばせたくて」
まふゆちゃん、また、寒そうな格好してる。
冬になってから何度言われたかわからない言葉をまた言われて。
それで、どうしたの? こんな寒い夜に、他のひとにはだれにも伝えずに丘の上に来てほしいなんて。
あの子は、思い返せばそうだ――笑っていたけれど、困った顔を、していた。呼ばれた時点でほんとうは、……不審に思っていたのだろう。
「……喜ばせたくは、あったんです。でも、結果的に」
「そうですね」
瞳子さんは、それだけ言った。
私の思考をそのまま読み取っているのならば――わかってしまっただろうに。
私が、友達だったあの子を、殺しかけてしまったこと。
今年はまだ雪を見てないねえ。雪、降ってくれればいいのに。
それは、私があの子を呼び出すきっかけになった言葉。
しみじみとそう言ったあの子に、勢い込んで私は聞いてしまった。
雪、好きなの?
あの子は面食らったような顔をしたけれど、すぐに親しげに笑った。
雪って、きれいじゃん。寒いけど。嫌いなひとって、いないんじゃない? ああ、そうだ。むかし家族で北のほうの雪まつりに行ったの。なにもかもが氷でできていて、きれいだったなあ……また雪が積もっているのを見たいなあ……。
それは彼女の、あくまでちょっとした雑談だったに違いないのに、あのときの私は、そんな簡単なことさえわからなかったのだ。
雪が、きれいな季節なのだ。冬は、言わずもがな。
見せてあげたい。プレゼントしたい。――特別な雪景色を、あの子だけに!
いまにして思うと、熱がこもりすぎた気持ち悪い考えだけれども、まだ、気持ち悪いだけで済めばよかった。
寒い晩に理由を告げずにわざわざあの子を呼び出して、近くの丘の上に連れ出して――結果、私がしたことと言えば、友達の殺人未遂。
暗くて、あたりが一面凍りつくなか。
救急車や警察の車が、たくさんやってきて。
あの子は意識不明で。あの子の家族は、泣いていて。
その場にいたみんなが寒そうにしていたけれど、雪女の私は、やっぱり寒さを感じることができなかった。
一命をとりとめたあの子は、私がいくら違うと言ってももう話を聴いてくれなくて……雪も冬も、怖くて、大嫌いになってしまって。凍傷や、凍傷のせいで起こった症状で入院したあの子のもとに、何度も何度もお見舞いに行ったけれど……最後にはあの子のお母さんに、申し訳なさそうに言われた。
ごめんね、まふゆちゃん。まさか、うちの子が言うように、まふゆちゃんが恐ろしい雪女だったなんて私は思っていないけれど……死にかけたトラウマのせいで、気が立っていて、その、もう、……まふゆちゃんに会うのもつらいみたいなの。
いままで、うちの子と仲よくしてくれて、ありがとう。
うちの子のことは忘れて……新しい、いい友達をつくってね。
それは、つまり、さようなら――ということだった。
あんなに仲がよかったのに。終わるときには、あっけなかった……もちろん、私が悪いのだ。私は力の制御ができなくて、どんどん凍りつく世界のなかで、なすすべもなくて――あの子は、どれだけ怖かっただろう。
私は、それから友達ができなかった。
もともと友達のできない性格だったのだ。あの子が、はじめての友達だったのだから。
そのまま私はひととの距離を縮めることを恐れて――大学生というこの歳まで、きてしまった。
瞳子さんが言う。
「能力を暴走させてしまうのは、よくあることですよ。……とか言っていいのか、わかりませんけれど。超能力者なんかやっているとね、能力を暴走させてしまうひとを組織でいっぱい見てきました……それこそ、身近なひとを傷つけてしまったりですとかね、それはそれはいろいろ……ありますよ」
瞳子さんは、遠い目をした。
「悔やむものです。悔やめている超能力者は、いい超能力者に成長するものです。キツい失敗が続いたとき。自信をなくすとき。私は、いつも思うんですよ。アツシくんの言葉を――無理なことなんて、なにもない、って。たくさんの苦労を乗り越えていま、輝いて言っている彼の言葉を」
『無理なことなんて、なにもない』
……そうだ。たしかに。
アツシくんの――口癖、名台詞だ。
瞳子さんは、不器用にも、優しく笑う。
「ね? アツシくん推しなら、わかるでしょう」
「……はい。もちろん。アツシくん、よくそう言ってますもんね」
「でも――でも、ほんとに、できるかわからないんです。また、すべてを凍らせてしまうかも……」
「可憐さんも。サイリウムで飛ぶなんてできるかわからないですけれど、やろうとしてくれています」
可憐さんは、集中してサイリウムに魔力を込め続けていたけれど、ふと目を開けた。……力強い不敵な笑顔だけれど、必死で頑張りすぎているのか、冷や汗が出ている。
「……なんか、いい感じに話のたとえに使ってもらっているところで申し訳ないんだけれども、バッドニュースよ。……サイリウムでいま、飛ぶのは無理。空の精霊に呼応するコアをこの子は持っていない――この子は、サイリウムという、ひとを応援するために創られた存在。瞳子の熱い想いもこもっている……つまりは、炎の精霊にすでに愛されてしまっているのよ。炎の精霊に呼応する子を空の精霊に呼応させるのは、難しいの――すくなくとも七日は時間が要る」
「それは、つまり……?」
「いまは諦めたほうがよさそう、ってことね」
「ええっ、ちょっと、可憐さん。自信ありげに言っておいて、できないんですか?」
「けれどもちろん、爆弾は止めるわ。大丈夫よ」
「どうやって――」
「サイリウム、いったん返すわ。飛べなくて、ごめんなさいね。この子にも無理を言ってしまって」
可憐さんは、なかば呆然とする瞳子さんにサイリウムを返す。
「私たち宿命を背負った者たちは、連携して魔獣を倒すこともよくある。各々、愛してくれている精霊が違ったりするから。やれることが、みんな違うのね。普段は孤独を愛する者が多い私たちだけれど、必要とあれば力を合わせるわ。だれかができないことを自分がしてきたこともあったし、自分ができないことをだれかにしてもらったこともあった」
可憐さんは、私に向き直る。
「今回は、私ができなかった。本当にごめんなさい――そして、さっきのまふゆの話も実は聞かせてもらっていた。けれど、このまま諦めるわけにはいかない。まふゆ。だから、あなたに、お願いしたい。……爆弾を凍らせて、アツシくんを、みんなを救って」
そう言って、可憐さんは……私に向かって頭を下げた。
ドレスみたいな黒ずくめの服で、貴族みたいに、まっすぐ、きれいに。
「私からも、お願いします、まふゆさん。貴女の稀少な能力を、どうか貸してください」
瞳子さんまで……頭を下げた。
「……それは、氷の力を使って、ということですよね。爆弾を、わ、私のところに持ってこなくたって……もっと、別のやり方も……」
瞳子さんは、眼鏡越しの瞳で私をじっと見た。
「まふゆさん。あなたは、アツシくん推しですよね?」
「……はい。それは、もちろん」
「アツシくんを、助けたい――そうですよね?」
「もちろん……」
「では、どうして――ここにきて、躊躇うのですか?」
瞳子さんは、こちらをまっすぐに見つめてくる。
それはおそらく、責めているわけではなく、ただ問うているだけの静かなものだった。
唇を噛む。痛いほどに。
……ひとを凍らせてしまった記憶は、私のなかでも凍らせていた。
「……無理、ですよ……」
アツシくんを爆弾から守りたい。
もちろん、その気持ちは本物に決まっている。
アツシくんのおかげで私はどれだけキラキラした感情をもらえたか。毎日、どれだけ励まされていることか。
助けたい。だけど……だけど。
私には、無理だ。
能力をまともに扱うこともできない、駄目な雪女の私では……。
「全部を、凍らせるならまだしも。爆弾だけを、ピンポイントで凍らせるなんて……」
はっ、と口をつぐんだ。
それは、あの日の記憶。
氷になりかけた友達と、どうにか助かったあとの彼女に言われて凍りついた私の心――。
瞳子さんの瞳が、すうっと細められる。
ああ。逆に、どうしていままで気づかなかったのだろう――瞳子さんはきっとこれまでもこうして、他人の思考を読み取っていただろうに。
「……すみませんが、緊急事態なのでまふゆさんの思考を読み取らせていただきました。私のテレパシーの能力は、他人の思考がダイレクトに伝わってくるものです……言語的思考だけではなく、想い出の映像や、感情も……まふゆさん……氷の能力で、大事に思っていたひとを凍らせてしまったことがあるのですね」
そう。
その通りだ。
制服を着ていた時代のことだった。
引っ込み思案でぜんぜん友達ができなかった私にも、友達ができた。彼女はとっても明るくて、無邪気で……太陽そのものみたいな子だった……。
あの子の友達は私だけじゃなかったけれど、すくなくとも、クラスでいっしょに過ごす友達ポジションとしてあの子は私を選んでくれた。
クラス替えの季節から、春夏秋冬をいっしょに過ごした。
いっしょにテスト勉強をしたり、タピオカを飲みに行ったり、ひと晩じゅうスマホで通話したりして……楽しかった。
あの子といっしょにいるだけで、世界がキラキラした……。
あの子はいつでも私を喜ばせてくれた。
だから。私も、あの子を喜ばせたいと思った。
プレゼント。頑張って取った授業のノート。そんなの要らないよとあの子はいつも言ってくれた。私たち友達じゃないの、ねっ、まふゆちゃん、って少し困ったように笑っていた。
でも、足りないと私は思っていた。
もっともっと、なにかをあげなきゃ。
そうじゃないと、友達が他にもいるあの子の特別な――親友には、なれないと思った。
だから、あの子を呼び出した。
寒い寒い季節。雪女の、得意な季節に。
「……わかります。まふゆさん、べつにその子を――悪意で、凍らせたかったわけじゃないんですよね。ただ。……喜ばせたくて」
まふゆちゃん、また、寒そうな格好してる。
冬になってから何度言われたかわからない言葉をまた言われて。
それで、どうしたの? こんな寒い夜に、他のひとにはだれにも伝えずに丘の上に来てほしいなんて。
あの子は、思い返せばそうだ――笑っていたけれど、困った顔を、していた。呼ばれた時点でほんとうは、……不審に思っていたのだろう。
「……喜ばせたくは、あったんです。でも、結果的に」
「そうですね」
瞳子さんは、それだけ言った。
私の思考をそのまま読み取っているのならば――わかってしまっただろうに。
私が、友達だったあの子を、殺しかけてしまったこと。
今年はまだ雪を見てないねえ。雪、降ってくれればいいのに。
それは、私があの子を呼び出すきっかけになった言葉。
しみじみとそう言ったあの子に、勢い込んで私は聞いてしまった。
雪、好きなの?
あの子は面食らったような顔をしたけれど、すぐに親しげに笑った。
雪って、きれいじゃん。寒いけど。嫌いなひとって、いないんじゃない? ああ、そうだ。むかし家族で北のほうの雪まつりに行ったの。なにもかもが氷でできていて、きれいだったなあ……また雪が積もっているのを見たいなあ……。
それは彼女の、あくまでちょっとした雑談だったに違いないのに、あのときの私は、そんな簡単なことさえわからなかったのだ。
雪が、きれいな季節なのだ。冬は、言わずもがな。
見せてあげたい。プレゼントしたい。――特別な雪景色を、あの子だけに!
いまにして思うと、熱がこもりすぎた気持ち悪い考えだけれども、まだ、気持ち悪いだけで済めばよかった。
寒い晩に理由を告げずにわざわざあの子を呼び出して、近くの丘の上に連れ出して――結果、私がしたことと言えば、友達の殺人未遂。
暗くて、あたりが一面凍りつくなか。
救急車や警察の車が、たくさんやってきて。
あの子は意識不明で。あの子の家族は、泣いていて。
その場にいたみんなが寒そうにしていたけれど、雪女の私は、やっぱり寒さを感じることができなかった。
一命をとりとめたあの子は、私がいくら違うと言ってももう話を聴いてくれなくて……雪も冬も、怖くて、大嫌いになってしまって。凍傷や、凍傷のせいで起こった症状で入院したあの子のもとに、何度も何度もお見舞いに行ったけれど……最後にはあの子のお母さんに、申し訳なさそうに言われた。
ごめんね、まふゆちゃん。まさか、うちの子が言うように、まふゆちゃんが恐ろしい雪女だったなんて私は思っていないけれど……死にかけたトラウマのせいで、気が立っていて、その、もう、……まふゆちゃんに会うのもつらいみたいなの。
いままで、うちの子と仲よくしてくれて、ありがとう。
うちの子のことは忘れて……新しい、いい友達をつくってね。
それは、つまり、さようなら――ということだった。
あんなに仲がよかったのに。終わるときには、あっけなかった……もちろん、私が悪いのだ。私は力の制御ができなくて、どんどん凍りつく世界のなかで、なすすべもなくて――あの子は、どれだけ怖かっただろう。
私は、それから友達ができなかった。
もともと友達のできない性格だったのだ。あの子が、はじめての友達だったのだから。
そのまま私はひととの距離を縮めることを恐れて――大学生というこの歳まで、きてしまった。
瞳子さんが言う。
「能力を暴走させてしまうのは、よくあることですよ。……とか言っていいのか、わかりませんけれど。超能力者なんかやっているとね、能力を暴走させてしまうひとを組織でいっぱい見てきました……それこそ、身近なひとを傷つけてしまったりですとかね、それはそれはいろいろ……ありますよ」
瞳子さんは、遠い目をした。
「悔やむものです。悔やめている超能力者は、いい超能力者に成長するものです。キツい失敗が続いたとき。自信をなくすとき。私は、いつも思うんですよ。アツシくんの言葉を――無理なことなんて、なにもない、って。たくさんの苦労を乗り越えていま、輝いて言っている彼の言葉を」
『無理なことなんて、なにもない』
……そうだ。たしかに。
アツシくんの――口癖、名台詞だ。
瞳子さんは、不器用にも、優しく笑う。
「ね? アツシくん推しなら、わかるでしょう」
「……はい。もちろん。アツシくん、よくそう言ってますもんね」
「でも――でも、ほんとに、できるかわからないんです。また、すべてを凍らせてしまうかも……」
「可憐さんも。サイリウムで飛ぶなんてできるかわからないですけれど、やろうとしてくれています」
可憐さんは、集中してサイリウムに魔力を込め続けていたけれど、ふと目を開けた。……力強い不敵な笑顔だけれど、必死で頑張りすぎているのか、冷や汗が出ている。
「……なんか、いい感じに話のたとえに使ってもらっているところで申し訳ないんだけれども、バッドニュースよ。……サイリウムでいま、飛ぶのは無理。空の精霊に呼応するコアをこの子は持っていない――この子は、サイリウムという、ひとを応援するために創られた存在。瞳子の熱い想いもこもっている……つまりは、炎の精霊にすでに愛されてしまっているのよ。炎の精霊に呼応する子を空の精霊に呼応させるのは、難しいの――すくなくとも七日は時間が要る」
「それは、つまり……?」
「いまは諦めたほうがよさそう、ってことね」
「ええっ、ちょっと、可憐さん。自信ありげに言っておいて、できないんですか?」
「けれどもちろん、爆弾は止めるわ。大丈夫よ」
「どうやって――」
「サイリウム、いったん返すわ。飛べなくて、ごめんなさいね。この子にも無理を言ってしまって」
可憐さんは、なかば呆然とする瞳子さんにサイリウムを返す。
「私たち宿命を背負った者たちは、連携して魔獣を倒すこともよくある。各々、愛してくれている精霊が違ったりするから。やれることが、みんな違うのね。普段は孤独を愛する者が多い私たちだけれど、必要とあれば力を合わせるわ。だれかができないことを自分がしてきたこともあったし、自分ができないことをだれかにしてもらったこともあった」
可憐さんは、私に向き直る。
「今回は、私ができなかった。本当にごめんなさい――そして、さっきのまふゆの話も実は聞かせてもらっていた。けれど、このまま諦めるわけにはいかない。まふゆ。だから、あなたに、お願いしたい。……爆弾を凍らせて、アツシくんを、みんなを救って」
そう言って、可憐さんは……私に向かって頭を下げた。
ドレスみたいな黒ずくめの服で、貴族みたいに、まっすぐ、きれいに。
「私からも、お願いします、まふゆさん。貴女の稀少な能力を、どうか貸してください」
瞳子さんまで……頭を下げた。