フラウと同じ桃色の髪は腰より長く、背も高い。豪華な花冠が神々しいまである──いかにもファンタジーな美女。

 フラウがおずおずと口を開く。

「あの、そ、のぉ」

 隣に立つ母から何か伝えられて、それをリィトにわかる言葉に直そうとしているらしい。

 通訳というやつだ。

「え、と、教えてほし、のは、あなたのお名前、なのです」

「あっ」

 しまった、とリィトは頬を掻く。

 今の今まで、名前も名乗らずにきてしまった。さすがに礼儀知らずだ。

「リィトです。リィト・リカルト」

「りぃ、と、さま!」

「いや、様はいらなくて……」

 その言葉をさえぎるように、フラウは「リィトさま、リィトさま!」とリィトを連呼した。イワンの馬鹿ゲームみたいな連呼の仕方だ。ピザピザピザ。

 花人族の代表として、フラウはぺこりと頭を下げた。


「りぃとさま。あなたの畑で、はたらきたいのが、わたしたちですっ!」


 やっぱりその言葉は片言だったけれど、切実さは痛いほどに伝わった。


 ◆


 その夜。

 花人族たちの宴を抜け出して小屋に帰ったリィトは、ぼんやりと考え事をしていた。窓から星空が見える。

 ナビを起動すると、涼やかな声がリィトに問いかけた。

「質問。マスターは花人族を配下にするのですか?」

「配下じゃないよ、この畑の……小作人?」

「どっちもどっち、では?」

「……それはそうかも」

「誰にも干渉されずに好きなことをして自由に生きる、とマスターはおっしゃっていました。彼らをこの畑に関わらせることは、その目標と矛盾しませんか?」

 リィトは肩をすくめる。

 もちろん、誰にも干渉されずたったひとりで生きるなんて不可能だ。

 衣食住は植物魔導で最低限はどうにかなるけれど、たとえば本物の肉は店で買わないと手に入らない。肉っぽいものは手に入るけれどね。

「……せっかく買った土地の開墾には人手がいるし、彼らは春ベリーを安定して栽培したい。それに、ちょっと春ベリーの他にもベリー類の栽培をしないといけないからね。無料の労働力が手に入るなんて、願ってもないさ。Win-Winってやつだと思う」

「労働力ですか」

「ああ。自治区の商人さんに、赤ベリーの安定供給も約束しちゃったからね。労働力はいくらあってもいいさ。使えるものは使えないと」