真宙と距離を置くように言われて、一週間ほど経っただろう。

 私はほとんど家に引きこもり、なにも食べなければ勉強もしていなかった。ただ食卓椅子に足を抱えて座っているだけだった。

 こんな過ごし方をしていたから、時間の感覚などないに等しい。

 真宙のいない、非日常。

 静かで暗くて冷たい私の部屋。

 心に穴があいたような感覚。

 目の前の食卓テーブルには、今朝ドアポストに入っているのを見つけた、この部屋の合鍵だけが置かれている。

 それすらも、私の心を表しているように思えてくる。

 ちなみに鍵と一緒に手紙もあり、そこにはこう書かれていた。

『早紀ちゃんのことを嫌いになったわけじゃない。一つのことに一生懸命になる早紀ちゃんを、尊敬している。でも、やっぱり、これ以上交際を続けるのは無理だ。ごめんなさい』

 別れの手紙だった。

 これを読んだとき、声が出なかった。頭が真っ白になった。

 結芽に言われた通り、私は真宙がいなければ生きていけなかったらしい。

 これほど、なにも手につかなくなるとは、予想していなかった。

 込み上げてくるのは後悔と悲しみだ。

 もっと、真宙との時間を大切にしておけばよかった。真宙と向き合っておけばよかった。

 自分の悪いところに気付けていたら、こんなことにはならなかったはずなのに。

 広い部屋の中で、私はそんなことばかりを考えていた。

 しかしそれだけではない。疑問に思うこともあった。

 いつから、真宙の私に対する恋愛的な愛情が消えていたのだろう。

 真宙との楽しい時間は止まっていたのだろう。

 そこまで考えて、ふと思った。

 私は、この感覚を知っている。

 長年使っていた腕時計が止まっていたのを知ったときの感情と似ている。

「……そうだ、腕時計」

 久々に出した声は掠れていた。

 壊れてしまった腕時計。まだ買い直していないし、捨ててもいない。

 私は立ち上がって、鍵置きの隣に置いていた壊れた腕時計を手に取る。

 真宙にあんなことを思わせてしまったから、修理をしようと思って取っていた。だけど、もうできない。

 きっと、これを見る度に真宙のことを思い出してしまうだろう。

 私は腕時計を捨てることにした。

 スマホで腕時計の捨て方を調べる。電池を取り外し、不燃ごみとして出せばいいらしい。

 調べた通りに行い、ゴミ袋に入れる。

 腕時計と一緒に、思い出も消えてなくなりますようにと願いを込めて。

 私の頬に伝った雫は、止まることを知らなかった。