今さら参考書を開いたところでもう遅い。
早速泣きたい気持ちでいっぱいになりながら、大人しく死刑宣告——もとい、一限目の授業開始を待った。
「起立、気をつけ、礼」
チャイムと同時に古文の的場先生がやってきて、とうとう授業が始まった。
先生の手から小テストのプリントが一番前の席の人たちに配られる。
あたしは一番後ろの席で、冷や汗をかきながらプリントが回ってくるのを待っていた。
小テストとはいえ、点数はきちんと記録されるし、内申点にも響く。
ここで良い点数を取れなければ、一念発起して勉強を頑張ろうとしているあたしにとっ て、この上なく幸先の悪いスタートになってしまう。
それなのに、言うまでもなく対策など一つもしてない。
だってさっき知ったんだもん。
全ては前回の授業で小テストのことを聞き逃した自分が悪いのだが、急にテストだなんてあんまりだ。
自分の手元に回ってきた小テストのプリント。
裏返しに置いた、たった一枚の紙切れにあたしはきっと勝てない。
こんなペラ一枚の紙に。
「では、十分間。始め!」
先生の合図とともに、クラスの皆が一斉にプリントをひっくり返す。かさかさと、名前を書く。
そうして、止まる手。
あたしだけが、書き進められない。
周りの子たちはペンを止めずに解答を埋めていっている。
ああ、最悪だ。
ぱっと問題を見てもあたしにはさっぱり分からない。解けてもせいぜい一、二問。
絶望。
たかが小テストだと、思われるかもしれない。
けれど昨日の今日で、問題が解けないことに、頭が真っ白になっていた。
そう、真っ白に。
なって、いたんだけど。
そのはず、なんだけど。

(あれ……?)

信じられないことが起きた。
一度「それ」を見たとき、何かの間違いではないかと、自分の目をごしごし擦った。
そんなはずはない。意味が分からない。ああ、こんな幻覚が見えるほど、あたし疲れてんのかな——。

だって、ありえないじゃない。
問題用紙の解答欄のところに、うっすらと「答え」が見えるなんて。
本当に、そこに文字が書いてあるみたいに、解答欄の( )の中に、答えが浮き出ている。

突然起きたこの現象に、止まっていた手がびくっと震えた。
何これ。
本当に訳が分からない。
ああ、でも、書かなきゃ。
書かなきゃいけない。
左手にはめた黒い腕時計が、一秒ずつ小テストの時間終了までの時を刻んでいる。
昨日、桜庭書房で芦田さんが話していたことが脳裏をよぎった。
ブラック時計をはめると、何かが見えるようになる。

ゴクリと唾を呑み込んで、浮き出てきた答えを、そのまま解答欄に書き写した。