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「彩夏さんが見たのは、きっと彼がお父さんからもらった時計でしょう」
ふう、と息を吐いて、恵実は二人の聴衆の方を見た。
一瀬彩夏と吉原加奈。恵実は偶然やって来た二人の学生さんを、自分の家にあげた。といっても、彩夏は大学生で、加奈は中学生。二人とも、以前彼女が『ブラック時計』を貸した人物だった。
「昴さんの、お父さんの時計。確かに、そんなにそっくりな物なら、わたしが見たのはそうなんでしょうね……」
 恵実にもはっきりと分かるくらい、彩夏はがくりと肩を落として落胆していた。自分の予想が外れてそれほどショックだったのだろうか。
それとも。
「……でも、あの人が『ブラック時計』を着けていたのは本当よ」
彩夏と加奈が、同時に身を乗り出して、「本当に?」と恵実に問うた。
「だったらその、『ブラック時計』を昴さんが着けていたことと、恵実さんがわたしやこの子に時計を貸してくれたことが、何か関係あるんでしょうか?」
彩夏が、恵実にとって核心的なことを話出す。この人は、どれだけ勘が良いのだろうか。
「彩夏さんは賢いわね。そう。私があなたたちに時計を貸したのは、私が、“知りたい”と思ったからよ」
「知りたい」
「ええ。『ブラック時計』を着けたら、一体何が見えるようになるのか」
「だから、私に雑誌の代わりに時計を着けて欲しいと頼んだとき、“実験”だって言っていたのか」
中学生の加奈も、自分が桜庭書房で『ブラック時計』を借りた時のことを思い出し、頷いた。彩夏も同じで、恵実がどうしても、時計の効果を知りたかったのだということ、それが昴が『ブラック時計』を着けたことに関係しているのだと悟る。
「恵実さん、どうしてなんですか。どうして昴さんは『ブラック時計』を着けて、恵実さんは時計のことを知りたいとそこまで思うんですか。恵実さんが、昴さんが時計を通して何を見たのか、彼に教えてもらったのではないのでしょうか」
 
彩夏に問い詰められて、恵実は大きく肩を揺らした。これから語ろうとしていたこと、そして恵実に心に今も重しとなってのしかかっている昴の真実を、この子は見破ろうとしている。

「いいえ。分からないの。あの人が、『ブラック時計』で何を見ていたのか、私はいまも、分からない」