「恵実、来週の水曜日だけどさ」
「うん」
彼と交際が始まって、2年が経った。
金曜日の夜に、私は彼の家でくつろいでいた。彼があれほど願った「タメ口」は、付き合って半年ぐらいすると自然とそうなった。
もう、恥ずかしさも照れ臭さもない。交際を始めた当初のドキドキがなくなったといえばそうかもしれないけれど、私は世間一般のキラキラした女の子たちが望むような、キラキラした恋愛よりも、お布団に包みこまれるような、ぬくぬくと温まる恋愛をしたかった。だから、私にとっては手を繋ぐにもキスをするにも心臓の音が止まらなかった交際当初より、彼の家のベッドの上で布団にくるまって本を読める今の方が好きだ。
「どこか、美味しいお店にでも行こうか」
「どうしたの、急に」という言葉を引っ込める。彼がどこかに行こう切り出す時は、決まって特別な日なのだ。
私はチラリと横目で彼の机の上に置いてある卓上カレンダーを見た。来週の水曜日まで視線を移して、止まった。2019年2月27日。そうだ、この日は私たちの記念日だ。
交際2年目の、記念日。
なぜそんな大事なことを忘れていたんだろうと呆れる。日々、桜庭書房の売上と闘っていて忙しかったから、といえば言い訳にしか聞こえないだろう。心の中で、彼に「ごめんね」と頭を下げた。
「いいねえ。行こう」
大切な日だと思い出した途端、胸が高鳴った。自分の中に、まだこんな感情がしっかりと残っていることが意外だった。いくら温かく穏やかな恋愛を楽しみたいという私でも、流石に記念日デートのお誘いは嬉しい。
「じゃあ、計画しておくよ」
彼が、私の頭をさらりと撫でる。彼の手は、ごつごつしているけど柔らかい。大きくて、私の中のいろいろな不安をかき消してくれる。彼以外の男性の手の温もりを知らないけれど、私にとってはこの手の感触がどうしようもなく一番好きだ。
「楽しみ」