初めて串間悟を意識したのは2年生のクラス替えをして、「委員会決め」をしたときのことだった。「委員会決め」は毎年学期の初めに、クラスでの役割を決めるために行われる。人気なのは給食委員や保健委員で、ほぼ毎回どのクラスでも、希望者が男女一名ずつの定員から溢れる。その場合、ジャンケンか話し合いで決めるしかないのだが、話し合いになるとなかなか決まらないため、結局はジャンケンになるのがいつものオチだ。

私は、その二つの委員に興味がなく、いつも図書委員を希望していた。当番の週は毎日昼休みに図書室に篭ってなくちゃいけないから、あまり人気のない委員ではあった。ただ、私のようにインドアで、外で遊ぶのが苦手な人間にとっては、天国以外のものでもない。

当然のように、「図書委員が良い人」という場面で私は手を挙げた。私の他に、手を挙げたのは串間悟の一人だけだった。男女一名ずつの委員なので、それであっさり決まる予定だったんだけれど。
私が、心の中でガッツポーズをした途端、もう一人、教室の真ん中ですっと手を挙げた人物がいた。
田中理恵だった。
陸上部で、1年生の頃から目立つ存在だから彼女のことは知っていた。話したことはない。自分とは全然違う種類の人間だと思ったから。
彼女と揉めるのはやだな、という心理が自然と働いた。ほとんど無意識に、私は彼女に図書委員の座を譲っていた。こうして2年3組の図書委員は串間悟と田中理恵に決定。私は、残り物の整備委員になった。

理恵が、本なんか読まないことなんて、クラスのみんなが知っていた。私も、なんとなく気づいてはいた。実際彼女が学校で読書をしているところなんて一度も見たことがなかったし、図書委員の仕事だって、当番の週はいつも彼女を好いている女子たちに押し付けていた。
そんなにやりたくない仕事なら、どうして図書委員なんかに立候補したの。
その疑問には、あまりにも分かりきった回答が用意されていた。
串間悟。
彼女が悟のことを好きだということは、クラスのみんなが知っていた。彼女の態度や言葉遣いからして、明らかだった。悟と接する時だけは、猫撫で声になっていたから。
悟も、そんな彼女の視線に気づいていたに違いない。だからこそ、いつもまんざらでもないふうに、クールに対応していたのだ。
クラスの女子たちも、男子たちも皆、理恵の言うことなら何でも聞いているのに。そのせいで、私はクラスで村八分状態にまでなったのに。

悟はいつも、変わらなかった。
彼だけは、私をいじめるでもなく、かといって分かりやすく庇ってくれるわけでもなかった。
それは、見方によれば、薄情な人間でいじめているのと一緒だと捉えられるのかもしれなかった。けれど、私にとって、彼の中立的な態度が唯一の救いだった。彼だけは、私をなんとも思わない。過剰に嫌うことも、過剰に構うこともないだろう。
それでよかった。 
それだけで、私の居場所はここにあるんだと思えたから。
悟に対して感じる気持ちが、一体何なのか、分からない。
クラスの権力者に迎合しない同志に対する、戦友としての好意なのか、人としての好意なのか。
それとも——。