「さっむ」
ご飯を食べて身体が温まったぶん、外に出た時の肌を突き刺す寒さが際立つ。
12月になったばかりの今日。
12月までは「まだ秋かな」って悠長に構えているのに、一度12月になると一気に冬だという認識になる。
この寒さの中、自転車を漕いで帰るのは辛いなあ。
「じゃあみんな、また」
「お疲れー」
男子メンバーが次々と自転車に跨り帰路につく。
自転車で帰るメンバーは大体一人暮らしの下宿生なので、家も近いメンバー。
電車で帰る組は自宅から通っている人たち。
割合的には下宿生と自宅生で半分ずつといったところだけれど、結局いつも一緒に帰るのは弥生だけだ。
「春人、帰ろ」
香奈さんはいつものように、春人さんの隣をキープしている。二人とも一人暮らし勢なので、わたしや弥生、1年の桃も一緒なのだけれど。
「ああ、ちょっと待って」
スマホを触っていた春人さんが、飼い犬に「待て」をするみたいに、左手で香奈さんを制した。
ここのところ、春人さんはサークルのアフター中、帰り道にスマホをいじってることが多いから、香奈さんがやきもきしているのがよく分かる。付き合っているわけでもないのに、よくそこまで思えるな、と思ったけれど、わたしだって他人のことは言えない。
春人さんと香奈さんが二人で話しているのを見ると、いつだってもやもやとした気分に襲われる。
「彩夏、大丈夫?」
わたしの気持ちを知っている弥生だけが、いつも気づいて声をかけてくれる。声をかけてくれる前はスマホの画面を眺めていたのに、よくここまで人の気持ちを察せられるなと感心する。
「どうしたんですか」
わたしの気持ちを知らない桃だって、気配ぐらいは察しているんだろう。
「ううん、なんでもない」
弥生も桃も、察しがいい。
それなのに、どうして当の本人たちは、気づいてくれないんだろう、
前方で、春人さんが香奈さんに向かって「帰るか」と声をかけるのが見えた。
嬉しそうに頷く香奈さん。
「なんでもない」なんて、どうしてそんな嘘がつけるのか。
わたしは、自分の言葉に若干傷つきながら、自転車に跨った。
現状打破。
家に帰り着いてからずっと、その四文字の漢字が、頭の中で明滅している。
現状打破、しないと。
そうだよ。悩みがあるんだったら、どうにかしてそれを解決するの。友達と喧嘩した時だって、必死になって仲直りの方法、探すじゃない。それと一緒。
ワンルーム、9畳のわたしの部屋は、一人で暮らすのには十分すぎるほど広い。
母が、「せっかく一人暮らしするんだったら、狭苦しい部屋なんか嫌じゃない」と気を回してくれたからこうなった。
でも、わたしには、持て余しすぎるよ。
この広さは、一人じゃもったいない。
彼氏でもいたら、違うんだろうけどな。
彼氏、と心の中で発音しただけで、急に心がざわつき始める。
違う。春人さんへの気持ちは、わたしの一方的な気持ちなんだから。
それが苦しくて悩んでいるというのに、ドキドキなんかできない。
「はあ」
重たいため息を、わたしは誰に聞かせればいいんだろう?
ご飯を食べて身体が温まったぶん、外に出た時の肌を突き刺す寒さが際立つ。
12月になったばかりの今日。
12月までは「まだ秋かな」って悠長に構えているのに、一度12月になると一気に冬だという認識になる。
この寒さの中、自転車を漕いで帰るのは辛いなあ。
「じゃあみんな、また」
「お疲れー」
男子メンバーが次々と自転車に跨り帰路につく。
自転車で帰るメンバーは大体一人暮らしの下宿生なので、家も近いメンバー。
電車で帰る組は自宅から通っている人たち。
割合的には下宿生と自宅生で半分ずつといったところだけれど、結局いつも一緒に帰るのは弥生だけだ。
「春人、帰ろ」
香奈さんはいつものように、春人さんの隣をキープしている。二人とも一人暮らし勢なので、わたしや弥生、1年の桃も一緒なのだけれど。
「ああ、ちょっと待って」
スマホを触っていた春人さんが、飼い犬に「待て」をするみたいに、左手で香奈さんを制した。
ここのところ、春人さんはサークルのアフター中、帰り道にスマホをいじってることが多いから、香奈さんがやきもきしているのがよく分かる。付き合っているわけでもないのに、よくそこまで思えるな、と思ったけれど、わたしだって他人のことは言えない。
春人さんと香奈さんが二人で話しているのを見ると、いつだってもやもやとした気分に襲われる。
「彩夏、大丈夫?」
わたしの気持ちを知っている弥生だけが、いつも気づいて声をかけてくれる。声をかけてくれる前はスマホの画面を眺めていたのに、よくここまで人の気持ちを察せられるなと感心する。
「どうしたんですか」
わたしの気持ちを知らない桃だって、気配ぐらいは察しているんだろう。
「ううん、なんでもない」
弥生も桃も、察しがいい。
それなのに、どうして当の本人たちは、気づいてくれないんだろう、
前方で、春人さんが香奈さんに向かって「帰るか」と声をかけるのが見えた。
嬉しそうに頷く香奈さん。
「なんでもない」なんて、どうしてそんな嘘がつけるのか。
わたしは、自分の言葉に若干傷つきながら、自転車に跨った。
現状打破。
家に帰り着いてからずっと、その四文字の漢字が、頭の中で明滅している。
現状打破、しないと。
そうだよ。悩みがあるんだったら、どうにかしてそれを解決するの。友達と喧嘩した時だって、必死になって仲直りの方法、探すじゃない。それと一緒。
ワンルーム、9畳のわたしの部屋は、一人で暮らすのには十分すぎるほど広い。
母が、「せっかく一人暮らしするんだったら、狭苦しい部屋なんか嫌じゃない」と気を回してくれたからこうなった。
でも、わたしには、持て余しすぎるよ。
この広さは、一人じゃもったいない。
彼氏でもいたら、違うんだろうけどな。
彼氏、と心の中で発音しただけで、急に心がざわつき始める。
違う。春人さんへの気持ちは、わたしの一方的な気持ちなんだから。
それが苦しくて悩んでいるというのに、ドキドキなんかできない。
「はあ」
重たいため息を、わたしは誰に聞かせればいいんだろう?