男の子を本気で好きだなんて、今まで思ったことがなかった。
そりゃ、幼稚園の時なんかに仲良しだった男の子に「〇〇くんが好き!」って叫んだことはあったけれど、あれは純粋に友達としての「好き」だ。そもそも、恋なんて言葉すら知らなかった当時は、男の子に「好き」と言うのだって、簡単だった。
自分の中で、「この人のことが好き」と認めるのも、簡単。
けれど、あたしだってもう、高校生。
恋愛の「好き」と友達としての「好き」が違うことくらい分かる。
隣の席で、いつもふざけ合う仲の種田に対して、あたしは自分の気持ちをちゃんと理解しようとしていなかった。彼をはっきり「好き」だと感じられたのは、こうして花鈴や真由に種田との一件を話したおかげだと思う。
「分かる、里穂の気持ち」
笑われると思った。
笑われるか、からかわれるか。
ついに里穂にも好きな人ができたんだ、お祝いしよう! なんてことになっても不思議じゃなかった。
でも、花鈴も真由も、神妙な面持ちであたしに共感してくれた。
そうだ、だって花鈴は片思いで振られた渡瀬君のことを、今でも好きだと思っている。
真由だって、去年は彼氏がいた時期もあった。今だって、もしかしたら片思いなんかも、してるのかもしれない。
そう思うと、ふと心が和む。
あたしだけじゃ、ないのかな。
誰かの気持ちに、悩んで進めなくなるの。
「里穂は、大袈裟に考えすぎなんだって」
今度は真由が、あたしの目を見た。
坂の上から、生徒指導の上村先生がツカツカ降りてくるのが見えた。反射的にあたしたち三人は、交差点から左の道に少しだけ進んだ。
「種田から正式に告白されたわけでもないんだから、堂々としてればいいんだよ。まあ、聞いた限りじゃ告白みたいなもんだけどさ。『あなたの気持ちなんか聞いてません』ってしらばっくれとけば大丈夫! 恋愛の先輩が言うんだから、間違いないって」
腰に手を当てて得意げに語る真由が、今日ばかりはとても頼もしいお姉さんに見えた。
「そっか。気にしなくて、いいのか」
「うんうん。なんでもないフリしてさ、『悔しかったら告白してみな!』って態度でいればいいよ」
「真由、それって実践済み?」
「そんなわけない! もう、うるさいなあ」
ははは、と花鈴と真由がいつものように元気に笑う。
恋の話も、おしゃれや流行りへの理解も、女子高生の代表みたいに敏感で、「敵わないな」と思っていた二人が、急に自分に近い存在に見えた。
「おい、皆早く帰れよ」
交差点に到達した上村先生が、あたしたちを発見して注意した。あたしたちだけじゃない。テスト休みをいいことに、友達やカップル同士で立ち止まっていた生徒たちが皆、「はーい」としぶしぶ解散してゆく。
「仕方ない、今日は帰りますか」
里穂、種田とのこと、応援してる。
最後は二人とも、しっかりとあたしの背中を押してくれた。
持つべきものは、女友達。
1週間前からつい先ほどまで止まっていた種田への気持ちの整理が、ようやく動き出した気がする。
家に帰ったら、テスト勉強しないとな。
花鈴と真由に手を振って、左手の腕時計を見ながら、時計とテストと種田のことを、もっとちゃんと考えようと決意した。
そりゃ、幼稚園の時なんかに仲良しだった男の子に「〇〇くんが好き!」って叫んだことはあったけれど、あれは純粋に友達としての「好き」だ。そもそも、恋なんて言葉すら知らなかった当時は、男の子に「好き」と言うのだって、簡単だった。
自分の中で、「この人のことが好き」と認めるのも、簡単。
けれど、あたしだってもう、高校生。
恋愛の「好き」と友達としての「好き」が違うことくらい分かる。
隣の席で、いつもふざけ合う仲の種田に対して、あたしは自分の気持ちをちゃんと理解しようとしていなかった。彼をはっきり「好き」だと感じられたのは、こうして花鈴や真由に種田との一件を話したおかげだと思う。
「分かる、里穂の気持ち」
笑われると思った。
笑われるか、からかわれるか。
ついに里穂にも好きな人ができたんだ、お祝いしよう! なんてことになっても不思議じゃなかった。
でも、花鈴も真由も、神妙な面持ちであたしに共感してくれた。
そうだ、だって花鈴は片思いで振られた渡瀬君のことを、今でも好きだと思っている。
真由だって、去年は彼氏がいた時期もあった。今だって、もしかしたら片思いなんかも、してるのかもしれない。
そう思うと、ふと心が和む。
あたしだけじゃ、ないのかな。
誰かの気持ちに、悩んで進めなくなるの。
「里穂は、大袈裟に考えすぎなんだって」
今度は真由が、あたしの目を見た。
坂の上から、生徒指導の上村先生がツカツカ降りてくるのが見えた。反射的にあたしたち三人は、交差点から左の道に少しだけ進んだ。
「種田から正式に告白されたわけでもないんだから、堂々としてればいいんだよ。まあ、聞いた限りじゃ告白みたいなもんだけどさ。『あなたの気持ちなんか聞いてません』ってしらばっくれとけば大丈夫! 恋愛の先輩が言うんだから、間違いないって」
腰に手を当てて得意げに語る真由が、今日ばかりはとても頼もしいお姉さんに見えた。
「そっか。気にしなくて、いいのか」
「うんうん。なんでもないフリしてさ、『悔しかったら告白してみな!』って態度でいればいいよ」
「真由、それって実践済み?」
「そんなわけない! もう、うるさいなあ」
ははは、と花鈴と真由がいつものように元気に笑う。
恋の話も、おしゃれや流行りへの理解も、女子高生の代表みたいに敏感で、「敵わないな」と思っていた二人が、急に自分に近い存在に見えた。
「おい、皆早く帰れよ」
交差点に到達した上村先生が、あたしたちを発見して注意した。あたしたちだけじゃない。テスト休みをいいことに、友達やカップル同士で立ち止まっていた生徒たちが皆、「はーい」としぶしぶ解散してゆく。
「仕方ない、今日は帰りますか」
里穂、種田とのこと、応援してる。
最後は二人とも、しっかりとあたしの背中を押してくれた。
持つべきものは、女友達。
1週間前からつい先ほどまで止まっていた種田への気持ちの整理が、ようやく動き出した気がする。
家に帰ったら、テスト勉強しないとな。
花鈴と真由に手を振って、左手の腕時計を見ながら、時計とテストと種田のことを、もっとちゃんと考えようと決意した。