「里穂、どーしたの。さっきから変だよ」
いつも一緒に昼休みを過ごす北原花鈴(きたはらかりん)篠田真由(しのだまゆ)が、あたしの顔を覗き込む。
二人はすでに机の上にお弁当箱を広げ、おかずも半分くらい平らげていた。
「なんでもない」
なんでもないのならなぜ、昼休みが15分も過ぎた今もお弁当を開けていないのか、言い訳できない。
「時計、変えた?」
あたしの正面に座っていた真由がそう訊いてきたとき、あたしは反射的にピクッと反応した。
「うん。変えた」
「珍しいね。新品じゃないみたいだし。あんまりこだわりないのかと思ってた」
「こだわりじゃないよ。これ、お下がりだから」
お下がり、は嘘とも本当とも言えない表現だったけど、あの書店での出来事を話しても絶対に信じてもらえない。
「てかさ、今週の占い見た?」
「見た見た!」
占い、とは女子高生の間で流行っているネットの「しろくま占い」のことだ。
毎週月曜日になると一週間の運勢を星座で占ってくれる。しろくまのキャラクターが運勢を教えてくれるというものだ。文量がそこそこあって割と的確なことが書いてある、とあたしたちの間では評判なのだ。
「花鈴、どうだったの」
「それがさ、聞いて! 水瓶座、『これまでもやもやしていたことが分かってすっきりします。問題は良い方向へ向かってゆくので未来は明るい』だって! これって、渡瀬(わたせ)君のことかな」
「ええっ良かったじゃん」
「でしょー!」
花鈴と真由は占いの結果にきゃっきゃっとはしゃいでいる。ちなみに渡瀬君というのは花鈴の片思いの相手。隣のクラスで、一度告白まで漕ぎ着けたものの、その時に振られている。振られたけど、本人は全く諦めていない。恋というのはそんなものだ、と胸を張って答えていた。
「もやもやしてたこと、ね……」
ああ、だめだ。
またブラック時計のことを考えてしまう。
時計の真実。時計の効果。あたしの見間違いか、それとも本当なのか。
「どうしたのよ里穂。やっぱり今日変じゃない?」
いつもなら占いの結果に、あたしも二人と一緒にああだこうだ言いながら談笑していた。
でも今日は、頭から時計のことが離れず、ぐるぐる、ぐるぐる、頭の中であたしの思考を独占する。
「変だよね」
「うーん」
「うん、変だ」
壊れているのは時計なのか、あたしなのか。