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「前回の小テストを返却します」
週明けの、4限目。
また、古典の時間がやってきた。
的場先生は、B4サイズの小テストの束を持って、教卓の前に立っていた。
「秋葉さん」
男子生徒を出席番号順に呼んで答案を返したあと、いよいよあたしの名前が呼ばれた。女子の中では一番最初の出席番号だから、すぐ。
「はい」
緊張で、いつもよりうわずった声が出た。
左隣から、「どうした」と言わんばかりの種田の視線を感じた。
その視線を無視し、的場先生のところまで歩く。
逃げ出したい、という感情はなかった。
今までだったら、このテスト返却の時間がたまらなく嫌で、次の授業までタイムスリップしたいくらいだったのに。
的場先生は、「はい」といってあたしに小テストを手渡した。先生はいつも、テスト返却時はノーコメントだ。それがただ「点数を見なさい」と言われているようで余計緊張するのだけれど。
渡されたテストをさっと二つ折りにし、席に戻ってから点数を確認した。

嘘でしょ。
点数のところ、0が二つ並んでいる……。
あまりのことに何も反応ができずにいると、種田がまた横から口を出してきた。
「どうした秋葉。また悪かったのか」
これは質問というより、確信。
確信で訊いてきている。
「……」
無言の返答が、逆に彼を怪しませる結果となり。
「は……」
無防備だったあたしの小テストを横からちらりと覗き込んで、目を大きくさせた。
満点の小テスト。
普段は“ピン”ばかりが並んでいる解答欄がすべて丸で囲まれているその紙を見て、彼はきっと、「そんな馬鹿な」と思ったことだろう。
あたしだってそう。
この小テストの時間浮かび上がった解答。
しかもそれが全て合っていて、自分が見たものが間違いなく「正解」の答えだったと知る。
衝撃でないわけがない。
「秋葉、お前、勉強してただろ。こっそり」
種田からすれば、直前までテストの存在を知らず絶望していたあたしが、実際に蓋を開けてみると満点だったと知って、騙されたと思っただろう。
疑われても仕方ない。
けれど、状況が状況だけに、「してない」というあたしの声は、震えた。
「ふーん」
あたしの嘘に気づいたのか気づいていないのか、種田はそれ以上何も言わなかった。

たかが小テスト。
されど小テスト。

分かっちゃいた。
だからこれまでも「勉強しなきゃな」と思いつつ、サボっていのだ。
もうサボるのはやめよう、良い加減、勉強頑張らなくちゃと思った矢先に、なぜ。
昼休みの間じゅう、ぼうっと考えていた。
左手の黒い腕時計。
この時計が、テストの答えを見せた。
信じられない。信じられないけれど、じゃあ他にどうして答えが分かったのかと言われれば、見当つかなかった。