◇◇◇
豊香さんが所属していた楽団の定期演奏会のチケットを神宮さんから譲り受け、期せずしてコンサートに一緒に行く約束が果たされることになった。
朝から着ていく服に迷いバタバタする私と、静かに食後のコーヒーを飲む成瀬さん。
雅さんは朝食の時からずっとご機嫌斜めだ。
「ワタシも行きたかったのに!」
「お前は行っても寝るだけなんだから意味ないだろ」
「二人がデートする意味だってないじゃない」
「意味ならあるよ。ほら、早く行かないと。今日は法事の手伝いなんだろ」
「なによ余裕ぶっちゃって! 知ってるんだからね、ワタシ。文化会館近くのカフェ何件もチェックしてプリントアウトしてた――」
「うるさいな。さっさと行け」
足蹴にされた雅さんはフラフラよろけた後、私の肩を鷲掴みする。大きながっしりした手で身動きを封じられるわ、目力強く迫られるわで、その迫力にヒッ! と短い悲鳴が出てしまった。
「陽菜ちゃん! 自分の身は自分で守るのよ! この男に惑わされちゃダメだからね!」
「コ、コンサートに行くだけなんですけど」
「雅。僕とお前、どっちが危険人物か自分の胸に聞いてみろ。陽菜さん、早いけどもう出よう。こんなのにいつまでも付き合ってられない」
「こんなのに!? ワタシたち親友よね!?」
「あー……本当に面倒くさいな、全く……」
廊下を行く成瀬さんの後ろを雅さんがあれこれ言いながらついていく。指で耳を塞ぐ仕草の成瀬さんの顔は後ろからじゃ見えないけれど、多分……いやきっと、前髪の奥の瞳を和らげ、唇の端はほんのちょっとだけ上げているのだろう。
気の置けない友人。強い絆がある二人。いいな、羨ましい。
「それじゃあ二人とも気を付けて。神宮さんに宜しくね」
「ああ。そっちも手伝いしっかりな」
「ハイハイ。頑張ります。陽菜ちゃん、楽しんできてね」
「いってきます! 雅さんも、いってらっしゃい」
雅さんはちょっと驚いた表情を見せて。でもすぐにいつもの綺麗な微笑みを浮かべた。
「いってらっしゃい。それから……いってきます」
豊香さんが所属していた楽団の定期演奏会のチケットを神宮さんから譲り受け、期せずしてコンサートに一緒に行く約束が果たされることになった。
朝から着ていく服に迷いバタバタする私と、静かに食後のコーヒーを飲む成瀬さん。
雅さんは朝食の時からずっとご機嫌斜めだ。
「ワタシも行きたかったのに!」
「お前は行っても寝るだけなんだから意味ないだろ」
「二人がデートする意味だってないじゃない」
「意味ならあるよ。ほら、早く行かないと。今日は法事の手伝いなんだろ」
「なによ余裕ぶっちゃって! 知ってるんだからね、ワタシ。文化会館近くのカフェ何件もチェックしてプリントアウトしてた――」
「うるさいな。さっさと行け」
足蹴にされた雅さんはフラフラよろけた後、私の肩を鷲掴みする。大きながっしりした手で身動きを封じられるわ、目力強く迫られるわで、その迫力にヒッ! と短い悲鳴が出てしまった。
「陽菜ちゃん! 自分の身は自分で守るのよ! この男に惑わされちゃダメだからね!」
「コ、コンサートに行くだけなんですけど」
「雅。僕とお前、どっちが危険人物か自分の胸に聞いてみろ。陽菜さん、早いけどもう出よう。こんなのにいつまでも付き合ってられない」
「こんなのに!? ワタシたち親友よね!?」
「あー……本当に面倒くさいな、全く……」
廊下を行く成瀬さんの後ろを雅さんがあれこれ言いながらついていく。指で耳を塞ぐ仕草の成瀬さんの顔は後ろからじゃ見えないけれど、多分……いやきっと、前髪の奥の瞳を和らげ、唇の端はほんのちょっとだけ上げているのだろう。
気の置けない友人。強い絆がある二人。いいな、羨ましい。
「それじゃあ二人とも気を付けて。神宮さんに宜しくね」
「ああ。そっちも手伝いしっかりな」
「ハイハイ。頑張ります。陽菜ちゃん、楽しんできてね」
「いってきます! 雅さんも、いってらっしゃい」
雅さんはちょっと驚いた表情を見せて。でもすぐにいつもの綺麗な微笑みを浮かべた。
「いってらっしゃい。それから……いってきます」