友達が怪我をしたり、最悪なトラブルが発生したり、いつもいつも予測不明な事が嫌な形で現れるのは雨の日だった。それも自分が絡んでいる時に限って。だからこれは私のせいなのだと――そう考えると怖くて、雨が嫌いになった。雨が降れば「早く止んでくれ」と願い、晴れるのを待った。
「君が施設の玄関前に置き去りにされた時。その日は、強い雨の日だった」
成瀬さんは右目を押さえ、低い声で言った。
雨の日――私も呟く。
「肌寒い深夜……だからクーファンで眠る君が凍えないように毛布をかけた――捨てるつもりじゃなかったんだ。迎えに来るからと、手紙を残している。君は消えてしまった母親の香りを探して精一杯の声で泣いた。雨の音にかき消されそうになりながら……でも諦めずに。だからすぐに施設の人が気付いてくれたんだね」
「迎えに? でも手紙の話なんて聞いたことない」
「風に飛ばされてしまったのかも。誰もその存在を知らないみたいだ」
「雨の日……私のせいでみんなが傷付いてたんじゃ、なかった?」
「うん」
「本当に?」
「ああ。偶然を必然と思い込んでいただけだよ。陽菜さんに闇の力は無い。そんなこと有り得ない」
「わたし……私は、」
声が震えて、涙が落ちた。
情報過多で混乱しそうになったけれど、たったひとつの真実がハッキリと私の心に突き刺さる。
「私、捨てられた訳じゃなかったんだ」
ずっとずっと頭から離れなかったもの。辛かった気持ち。
自暴自棄になってそれなら自分も手放せばいいと何度も考えた。親なんか、親なんて――と。
親元へ帰っていく子や里親に引き取られていく子を見ながら、羨望と嫉妬を感じながら。
いつもニコニコ笑ってる裏でこんな酷いことを考える自分だから、凶事を呼ぶんだ。そしてみんなを傷付ける。
辛い。辛い。苦しい。
欲しい。
――帰る場所が、欲しい。
「捨てられたんじゃなかった……!」
涙と一緒に吐き出したら、成瀬さんは「そうだよ」と優しい声で言い、微笑んだ。
「誰も陽菜さんをいらないなんて言ってないよ。ご両親も、文雄さんも、君を必死に求めていた。雅もマサシも陽菜さんと一緒にいるのが楽しいって。僕も――陽菜さんをずっと探してた。今ここに一緒にいられるのが夢みたいだ」
失くしてしまったものがどこにあるか教えてくれる。それが成瀬さんの瞳の力だ。
――雨の日、ひとりぼっちになった私がずっと探したもの。それを忘れた私に成瀬さんが教えてくれたのは、前に進むために必要な、大事な<ruby>こと<rt>心</rt></ruby>だった。
「君はたったひとりの、掛け替えのない存在。忘れないで。みんな陽菜さんを愛してる」
長い時間、私は子供みたいに泣きじゃくって。
成瀬さんは泣き止むまで手を繋いでいてくれた。
「君が施設の玄関前に置き去りにされた時。その日は、強い雨の日だった」
成瀬さんは右目を押さえ、低い声で言った。
雨の日――私も呟く。
「肌寒い深夜……だからクーファンで眠る君が凍えないように毛布をかけた――捨てるつもりじゃなかったんだ。迎えに来るからと、手紙を残している。君は消えてしまった母親の香りを探して精一杯の声で泣いた。雨の音にかき消されそうになりながら……でも諦めずに。だからすぐに施設の人が気付いてくれたんだね」
「迎えに? でも手紙の話なんて聞いたことない」
「風に飛ばされてしまったのかも。誰もその存在を知らないみたいだ」
「雨の日……私のせいでみんなが傷付いてたんじゃ、なかった?」
「うん」
「本当に?」
「ああ。偶然を必然と思い込んでいただけだよ。陽菜さんに闇の力は無い。そんなこと有り得ない」
「わたし……私は、」
声が震えて、涙が落ちた。
情報過多で混乱しそうになったけれど、たったひとつの真実がハッキリと私の心に突き刺さる。
「私、捨てられた訳じゃなかったんだ」
ずっとずっと頭から離れなかったもの。辛かった気持ち。
自暴自棄になってそれなら自分も手放せばいいと何度も考えた。親なんか、親なんて――と。
親元へ帰っていく子や里親に引き取られていく子を見ながら、羨望と嫉妬を感じながら。
いつもニコニコ笑ってる裏でこんな酷いことを考える自分だから、凶事を呼ぶんだ。そしてみんなを傷付ける。
辛い。辛い。苦しい。
欲しい。
――帰る場所が、欲しい。
「捨てられたんじゃなかった……!」
涙と一緒に吐き出したら、成瀬さんは「そうだよ」と優しい声で言い、微笑んだ。
「誰も陽菜さんをいらないなんて言ってないよ。ご両親も、文雄さんも、君を必死に求めていた。雅もマサシも陽菜さんと一緒にいるのが楽しいって。僕も――陽菜さんをずっと探してた。今ここに一緒にいられるのが夢みたいだ」
失くしてしまったものがどこにあるか教えてくれる。それが成瀬さんの瞳の力だ。
――雨の日、ひとりぼっちになった私がずっと探したもの。それを忘れた私に成瀬さんが教えてくれたのは、前に進むために必要な、大事な<ruby>こと<rt>心</rt></ruby>だった。
「君はたったひとりの、掛け替えのない存在。忘れないで。みんな陽菜さんを愛してる」
長い時間、私は子供みたいに泣きじゃくって。
成瀬さんは泣き止むまで手を繋いでいてくれた。