「レポートは終わった?」
「はい。おかげさまでなんとか」
 おやすみ前のお茶はラベンダー。ふわりと湯気に混じる優しい香りを吸い込んでホッと一息ついた。フレッシュラベンダーを使ってるんだよ、と成瀬さんが教えてくれる。雅さんが持ってきたそうだ。
「雅さん差し入れのオレンジゼリー食べながら頑張りました」
「まだ終わらないで困ってるようだったら自分も手伝うって……マサシが言うから」
 隣に座った成瀬さんが溜息を吐く。相変わらず距離が近いなぁ、なんて思いつつ整った横顔を見れば、綺麗な所作でお茶を飲んだ成瀬さんはまた溜息を吐いて。
「陽菜さんなら大丈夫だって言ったのに、結構粘ってたな……」
(みやび)さんが?」
「――うん。その様子なら安心だ」
 口元を僅かに緩めて、成瀬さんは頷いた。安心って何がだろう――さっぱり分からない。私のレポートが無事に終わった事?
「なんか気になる言い方ですね」
「僕の独り言だから気にする必要はないよ」
「しますよ。成瀬さんって時々意味深なんですもん」
「ごめんね、そんなつもりはないんだけど。マサシにもよく言われる」
 クスリと成瀬さんが笑った。
 二人きりじゃ広すぎるリビング。初めはどこもかしこも無駄に空間がある屋敷に落ち着かなかったけれど、ようやく慣れた。それは成瀬さんがいるからだと思ってる。不思議と、広い屋敷のどこに居ても、彼の気配を感じられるから。お祖父ちゃんの遺したものを守り続けている成瀬さんの存在はとても大きい。
 ここは陽菜さんの家だよと成瀬さんは笑うけど、そうじゃなくて、この屋敷はみんなの《家》なんだ。お祖父ちゃんの、私の、成瀬さんの、雅さんとマサシさんの。ただ暮らすだけの場じゃなくて、もっともっと広い意味を持つ――心の居場所。
――そして図書館も。あそこは様々なものが集まる、想いの拠り所だ。